秋山徳蔵『味 〜天皇の料理番が語る昭和』

味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)

味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)

素晴らしい。ファビュラス。エクセレント! 料理エッセイ好きはすべからくこの本を読むべし。ほんものの料理人は、料理にまつわるエトセトラのみを語るように見せかけて、料理以上のこと、うっかりすれば宇宙の摂理までを語りきるのだ。これは建築家でも、音楽家でも、杜氏でもいっしょ。ミクロはマクロでマクロはミクロ、ものづくりに対する真摯な姿勢。神は細部に宿りたまうのね。「美学」と言ってしまうとやや鼻持ちならないけど、まあ、そう、やっぱり美学ですわ。

私ねえ、職人の魂というのは、ほんとうに清冽だとおもうんですよ。名前イッパツでアゲアゲの有名パティシエでも、名もなきインハウスデザイナーでも、職人ならば持つべき魂は同じだろう。己の仕事を語り、それが誰かの心を動かすってのは「極めた者」にしか無理な話だけれどね。そして私は職人の仕事を心から尊敬します。

あと、職人はちょっと奇人な方がいいですね。あでも激烈な奇人は不可。百鬼園先生とか小澤征爾くらいまで。岡本太郎まで奇人度が進むともう職人論じゃなくて「岡本太郎論」になっちゃうので。