犬木加奈子『不思議のたたりちゃん 怨の章』

不思議のたたりちゃん 1 (講談社コミックスフレンド)

不思議のたたりちゃん 1 (講談社コミックスフレンド)

ホラーコミックなのである。楳図かずおをもっと今どきの少女マンガっぽくして、ほんの少し日野日出志の香りをただよわせる絵柄。
中学生のたたりちゃんは、いじめられっこなのである。ノートに青虫をはさまれたりなんかするのである。そしてつぶれた青虫を見て「こんないたずらに使われるなんてかわいそうに…」とぽつりともらす、心の優しい女の子なのである。しかし青虫が靴や給食に入れられるに至って、たたりちゃんの怒りは爆発する。「きっとたたりがあるからなあ」!! ま、魔太郎! 学校の畑に大量発生した青虫を使ったいじめの先鋒を担っていた青田くんは、たたりちゃんのたたりによって苦しめられる。布団に青虫がうじゃうじゃわき体中を虫がはいずりまわるとゆう、コカイン中毒患者のような幻覚におそわれたあげく、ついには背中が青虫のように盛り上がり、緑色の汁と青虫を出して悶絶。ラスト、キャベツ畑に立つたたりちゃんは「もうだれもおまえたちをいじめたりしない…」と安堵するが、そこに用務員のおじさんが容赦なく農薬を散布する。ここで用務員のおじさんにもたたるのかと思いきや、意外と常識人である彼女は「世の中こどもが考えてるほど甘くないってことはわかってるよ…」「だけどせめて、キャベツ畑の青空一面に白い蝶が舞っていたと、日記には書いておこう」と流れる涙をぬぐいもせずに立ちつくす。
そんな、悲しくてやがて哀しき小編が19入ったこのコミック。最高にオススメです。いじめられながらもなーんか悲愴感のただよわないたたりちゃんのたたずまいがイイ。勝手にたたりちゃんのことをライバル視する同じくいじめられっ子・乃呂井カケルとのバトルもイイ。いちいちセリフが面白い。理不尽にえげつなくいじめられるにも関わらず、そんなたたりちゃんの姿はなぜかキュートで見てて辛くない。『ライフ』みたいにどんよりと辛くない。それでもいじめは「ダメ絶対」というスタンスだとか、友情だとか、信用できる大人もいるってこととか、わりと真面目なメッセージもきちんと伝わってきて好感がもてる一冊でした。