内田百間『大貧帳』

大貧帳―内田百けん集成〈5〉   ちくま文庫

大貧帳―内田百けん集成〈5〉 ちくま文庫

内田百間が貧乏だ貧乏だと随筆で書いているのを何度も読んでいたが、これほどまでに貧乏だとは思わなかった。的な、貧乏話ばかりを集めた随筆集。教師や何やらの仕事で人より稼いでいるのに、その月給のほとんどが借金の利子で消えていくという。そしてそれを補うためにまた借金する。鬼のような借金取りもやってくる。その洗ったがごとしな赤貧生活を嘆くわけでも笑い飛ばすわけでもなく、淡々と人ごとのように書いている。あまりの人ごとっぷりに、読んでる私はニヤッと口の端が上がってしまう。この淡々さが百間の百間たるかんじなんだけど、やっぱり身内には欲しくないと思った。
百間先生は、こんな借金生活や、それが行き詰まったあげくの夜逃げ生活であるところの「砂利場の奥の2年間」や、戦後の焼け跡や、少年時代からの喫煙癖なんかを経てるにもかかわらず長生きしてるところがスゴイなあ。私がもしこんな状況になったら、こんなに淡々としていられないし、きっと追いつめられて胃がきゅうっとなって早死にするだろう。本人ならきっと「憎まれっ子世にはばかる、だ」とか言いそうだけど。そりゃ「まぁだかい」って言われるわなこの人は。